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書庫的ななにか

Archive2011年12月 1/1

あくまであくま 14

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  14「ななな――」 聖絵が布団を引っ被るのを尻目に、実房はベッドに端にどかりと腰掛けた。「なな、な、な――」「まあ、落ち着け」「おお、おち、おち――」「事情はだいたいわかってる。さっきまで、窓からこっそり見てたからな」「へ?」 慌てて振り返る聖絵だが、レースのカーテンがかかった窓に、実房の影を見るはずもない。 その実房は、ベッドの端に座って聖絵の身体をじっと見つめながら、変わらず丹田に力を込めている。...

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あくまであくま 13

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  13 九月も半ばだが――秋の気配は、まだ感じられぬ日が続いていた。 吹き抜ける風は生ぬるく、連日三十度を超えている。 しかし蝉の鳴き声はいつの間にかすくなくなったようだった。 時雨には遠く及ばず、ときおりどこかで鳴いているのを聞いて意外に思うほどである。 夏はまさにいま逃げ去ろうと、あるいは息絶えようとしていたが、日本の片隅のちいさな町には、欲望が太陽の代わりにぎらぎらと強い輝きを放っていた。 そ...

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あくまであくま 12

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  12 昼休みを挟んでの六限目が数学である。 生徒の集中力もいささか切れ、倦んだような陽光が差し込む教室は、空調が効いているのに眠気を誘う生ぬるい空気に包まれていた。 頬杖をついて、うつらうつらと船を漕ぐ生徒もちらほらと見える。 そのなかで、いちいち注意して起こすのも面倒だというような顔の教師、菅沼蘭だ。 白いチョークで指先を染め、片手に教科書を持ってこつこつと教壇をうろつく姿がまた、うっとりと見...

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あくまであくま 11

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  11 実房の欲望には際限がなかったが、かといって四六時中脳内に桃色のうす靄がかかっているわけではなく、うまく意識を切り替えることができていた。 授業中は授業中、と他念もなくノートに目を落とし、授業の要点を書き揃えていく。 ――それが三時間か四時間ほどあって、昼休みだ。 食堂へ向かうために教室を出ると、後ろからいつものように悪友たちが追いすがってきて、今日は普段よりもまじめな顔で、「どうだった? で...

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あくまであくま 10

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  10 授業がはじまる前の教室は、いつでも大抵騒がしい。 まるで気性の荒い小鳥を何十羽も詰め込んだような騒乱のなかで、実房は涼しい顔で携帯電話をいじっていた。 昨日の夜から、メールがいくつかきている。 どれも悪友たちからの、依頼のメールである。「なになに――」 メールの文面は、はばかりのない露骨な欲望で埋め尽くされていた。 クラスのだれだれの裸を撮ってくれ、一年のだれだれのおまんこが見たい――そんな依...

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あくまであくま 9

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  9 槌谷実房は、さすがに度を越した女好きといわれるだけのことはあった。 その回復力たるや、恐るべきものがある。 悪魔に、あるいはその見習いになって三日目、実房はそれまで慎重に行なってきたことを自らあざ笑うかのように、大胆な行動を繰り返した。 朝いちばんから、家に帰ってくるまでの十時間あまり、実房は五回もの射精をしていた。 まず早朝――さすがに夏の太陽は空に昇っていたが、それでも夜の清々しいような...

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あくまであくま 8

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  8 夏は早くに夜が明け、なかなか暮れ落ちない。 太陽はいつまでも山陰に粘り、六時をすぎてもまだかろうじて陽が赤く染まりはじめたくらいだった。 部活動をしていない槌谷実房は、当然もう帰宅している時間である。 しかし体力強化計画を立てた実房は、帰宅してすぐに服を着替え、また外へ出ていった。 近所のちょっとした公園である。 近ごろのマラソンブームもあり、公園の外周を走っている人間は大勢いた。 実房も...

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あくまであくま 7

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  7 食堂は変わらず騒がしかったが、実房が座る机だけが不気味に静まり返っていた。「これ、ほんとなのか?」 わずかに恐れを含んだ声色で悪友たちが問う。「ほんとだよ――おんなじ制服だろ?」「そう見えるけど、スカートだけだし――超能力なんて、信じられねえ」「おまえらだから、話すんだ。ほかの人間には言うなよ」「そりゃあ、言わないけどさ……でも信じられないよな。ほんとに念写なんかあるのか」「ほんとは念写じゃない...

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あくまであくま 6

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  6 チョークが黒板を叩く音は、ハイヒールの足音にも似て不思議と扇情的だ。 実房はまじめにノートを取りながら、その音に聴き惚れている。 ――鳴らしているのが、麗しい女教師であることも一因ではある。「つまりここの式を逆転させるだけでいいの。簡単でしょう。ただ、注意点がいくつかあって、式の前半が――」 朗々たる声も、どこか艶っぽく湿った雰囲気があって、男の耳をよろこばせる。 その本人はしかし、男がなによ...

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あくまであくま 5

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  5 ひとびとは、地面からぬっと生え出した植物のようだった。 色も形もさまざまに、微風にもゆるがぬ確かさで直立している。 実房はそのすき間をすり抜けるようにして歩いた。 人通りの多い駅前である。 正面に獣の口のごとく開いた駅舎の入り口があり、ひとびとはそこに吸い込まれんとしていた。 スーツ姿のサラリーマンが多い。 大学生らしい若者もちらほらあった。 制服を着た学生も見える。 九月とはいえまだ気温...

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あくまであくま 4

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  4 テレビゲームでいうところのレベルアップのようなものだ。 試験をひとつ超えるごとに、新たな能力を得るか、それともいま持っている能力を高めるかの選択ができるらしい。 羽毛のようにふわふわと浮かぶレヴィを眺めながら、実房は腕を組んだ。「もし能力を高めるとしたら、どうなるんだ?」「時間停止の限界が長くなるわ。いまは十五分だけど、倍の三十分に。もしそうでないなら、まったく新しい能力になるけど」 ふう...

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あくまであくま 3

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  3 実房はその日、顔色ひとつ変えず、授業を受けた。 その平静ぶりは恐ろしいものがあり、だれひとり、今朝実房の身に起こったことを感づくことはなかった。 ましてや昨日まで人間だった実房が、今朝は悪魔になっているなど、だれが思うだろう。 実房は決して焦らず、急がなかった。 特殊な能力を得たからといって、考えなしに使ってみるような愚かなことはしない。 落ち着いて状況を見極め、必要と思うときに、はじめて...

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あくまであくま 2

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  2 実房は、ははあ、と得心したようにうなずいた。 尋常ならざる立ち姿の女である。 ごく当たり前の人間だ、といわれるより、悪魔だ、とでもいわれたほうが納得もできるというものだ。 そして実房には、女の正体など些事である。「悪魔か、なるほど――ところでおっぱいを見せてもらっても?」「……は?」 悪魔と名乗った女、レヴィは、ぽかんと大口を開けた。「聞き間違いかしら――それとも悪魔って言ったのが聞こえなかった...

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あくまであくま 1

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  1 槌谷聖絵の目覚ましは、兄の声である。 午前七時十七分――毎朝ぴったりその時間に、隣室から兄、実房の声が聞こえてきて、目を覚ます。「今日もひとりでも多くの女のパンツを見るぞ! あわよくばおっぱいも見せてもらうぞ!」 鏡に向かって言っているらしい言葉である。 ばからしいが、それがどうにもうるさく、どうしても目が覚めてしまうから、聖絵はもはやその音声を目覚ましの音だとしか認識していなかった。 薄い...

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あくまであくま 0

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   あくまであくま  0 槌谷実房は、自称未来のモテ男である。 妹の聖絵をして、「顔と体格と声と頭はいいのに、いろんな意味でセンスが……」 と言わしめる。 今世紀最大のモテ男とはおれのこと、と自称しているのだから、その評価にもやむを得ないところはある。 顔は、なるほど、精悍といってもよかった。 髪は濡れ烏のような漆黒である。 くせのない直毛で、毛先は眉にかかるかどうかというところで揺れている。 目...

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