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書庫的ななにか

Archive2012年03月 1/1

タイルの上の攻防

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  0-4 タイルの上の攻防 雨はすっかり上がって、入道雲の大軍勢は立ち去ったというのに、ひとりずぶ濡れで歩くのはいささかみっともない。 近所まで帰ってくると顔見知りの住人も大勢いて、そのたびにどうしたのと聞かれるが、幸人は苦笑いしながら、「あれです、天気雨ってやつです。日ごろの行ないが悪かったみたいで」 と夕立を勘違いしているとしか思えない発言を堂々と繰り返しながら切り抜け、なんとか自宅の前にたど...

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死の先輩

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  0-3 死の先輩 偏差値がいささか低いことで知られる学校にも、当然図書室はある。 テスト前になってもさほど混むことはない図書室で、「いつ行ってもだれもいない場所」として知られているが、だれひとり利用者がいなかったところで、そこは図書室なのである。 いや――だれひとり利用者がいない、というのは恐ろしい誤解である。 利用者はいる。常に、最低ひとりは。 幸人はもちろん、日夜まじめに参考書を開き、勉強をす...

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クラスメイト

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  0-2 クラスメイト 大上幸人は家を出て、はあと息をついていた。「まったく由依のやつ、どこまで本気でどこまで冗談なんだか……つーかいったいどこであんな言葉を覚えたんだか」 無論、どこまでも本気で、あんな言葉以外の様々なことも知っているわけだが、そしてそれをうっすら自覚している幸人でもあるのだが、知らぬが仏のこのご時世、ぶつぶつとつぶやきながらバス停へ向かう。 幸人の通う高校は、バスで二十分ほど行っ...

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目覚めは命がけ

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  0 たとえばこんな日常で  0-1 目覚めは命がけ かちゃり、とわずかな金属音が鳴って、扉が薄く開いた。 ほの暗い室内である。 というのも、窓には遮光カーテンがかかり、燦々たる朝の陽光を、あるいはみんみんたる蝉の絶唱を遮って、ただわずかに冷房がちいさな唸り声を上げている。 簡素といえば簡素だが、だらしないといえばだらしない室内。 ベッドと机しかない部屋だが、あちこちに脱ぎ散らかした服が落ちていた...

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愛の夢

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   愛の夢 だれかの声。 息を潜める。「――遅くなっちゃったね。まだ門開いてるかな?」「ねえ、それより知ってる?」「なあに?」「この音楽室、だれもいないのにピアノが鳴るってうわさ」「えー、そんなことないよ。小学校じゃないんだから。ほら、いまだって、なんにも鳴ってないじゃん」 鍵盤に乗せた指先がすこしふるえる。 いま低音のドを押しこめば彼女たちは驚くだろうな、と思いながら。「それは、ほら、幽霊にも気...

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あくまであくま 51

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  51 実房は瞼を焼くような眩しさに目を覚ました。「む、起きたか」 流れるような金髪と、青空のような瞳がじっと実房を見下ろしている。 実房もしばらくそれを見上げていたが、ふと身体を起こし、あたりを見回した。 光が満ちる部屋だ。 羽根を敷き詰めたような白いベッドに横たわり、すぐそばにはうすいヴェールがかかっている。 実房はヴェールの内側に寝ているのだ。「――そう不安げな顔をするでない」 実房のすぐそば...

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あくまであくま 50

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  50 夜半になる。 暗い空から地上の一点に向かって、白い光の筋ができている。 まるで天国への階段を伝うように、白く輝く天使たちが続々と地上へ降りてくるのだ。「――神さまの命令だというが」「総動員をかけてまでひとりの人間を始末するというのも妙な話ね」「しかし、ともかく命がかかったからには行かなければ」 口々に囁き合って地上へ下る。 人間たちが暮らす町は恐ろしく静まり返り、頭上で起こっている数々の出来...

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あくまであくま 49

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  49 人間に対する魔力の影響は、もっとも顕著なのは聖絵だったが、それ以外の人間にも伝播していた。 たとえば聖絵と実房の母であるところの槌谷澪もいつの間にか悪魔ないし天使の存在が見えるようになっている。 これは実房が散々精液という魔力を注ぎ込んだせいだろうということだった。 となれば、もはやルシフェルとしてもこの一家と無関係ではいられず、「あ、あの」 とおずおずと近づいていって、近ごろは家事の手伝...

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あくまであくま 48

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  48「ちょ、ちょっと待って――いろいろ待って!」 ベッドに押し倒された聖絵はばたばたと暴れるが、覆い被さるルシフェルとの体格差は明らかだった。 ルシフェルは聖絵の整った顔を手で撫で、そのまま身体の輪郭を確かめるように撫で回して、浮かされたように呟く。「静かに――じっとしていてください。ご奉仕いたします、聖絵さま」「き、聖絵さま――お、お兄ちゃん! なんとか言ってよ」「まあ、いいだろう、別に。おまえもそ...

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あくまであくま 47

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  47 今後は悪魔陣営と神、すなわち天使双方の襲撃が想定される。 こちらにも優秀な手駒が六つあり、そう易々と寝首をかかれるようなことはないが、しかし万が一ということもあり得る。 結界でも張ろうか、と言い出したのはメルだった。「結界?」「つまり、侵入者を防ぐための壁やな。それを張っとけば天使でも悪魔でもそう簡単には入られへん」「ふむ――どうやって張るんだ?」「張り方はいろいろある」 とジブリールがあと...

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あくまであくま 46

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  46 遠からず神も潰すが、その前に悪魔のいちばんえらいやつを潰しておこう――。 そう言い出したのはもちろん実房である。 いまや実房の部下となった五人の女悪魔は神妙な顔で話を聞いている。「基本的におれは、ひとに邪魔されるのがきらいだ」 実房は腕を組み、はっきりと言う。「やりたいことをやりたいようにやりたいだけやる。それがおれなのだ」「ほんと、ろくな人間じゃないわね」 レヴィが呆れたように言った。「ま...

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あくまであくま 45

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  45 青々とした蔦の這う荘厳な扉を抜けた先、うすいヴェールがかかった神の座である。 ひとりの天使が跪き、報告をしている。 ――天界最強と謳われた熾天使、ジブリールの裏切りについての報告だ。「――それはまことのことか?」 ヴェールの奥から金の鐘を打ち鳴らしたような声が響く。 軽やかで、しかし慌てたような色も見える。 報告に赴いた天使はいよいよ深く頭を下げ、自らの非を謝罪するように顔色を青くしていた。「...

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