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書庫的ななにか

Archive2012年05月 1/1

沐浴

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  1-6 沐浴 勉強会は、概ね予想どおりの進行を見せた。 つまり、順調ではないが、ひとりでやるよりは楽しくできた、ということである。 知らない人間が大勢いるせいか、英子は普段よりはるかに消極的だったが、それでも質問をすれば答えるし、教え方も的確だった。 それに負けじと由依も熱心に教える。 しかし肝心の教わる側、幸人と早紀は、「ねえ、これ、なんだと思う?」「ああ? なんだ、その顔がゆがんだなぞの落書...

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天使たちのサミット

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  1-5 天使たちのサミット 日曜日、といえばキリスト教の休息日だが、日本でも当然のように休日として扱われ、学校、仕事もろもろから解放される、数少ない安息の日である。 ただ、一部には日曜日であろうといかなる祝日であろうと仕事をしなければならぬという哀れなるひとびともいて、幸人の両親はまさにそんなひとびとの一員だった。 まあ、あのひとたちの場合は仕事がなによりの楽しみだから、休日なんてむしろ邪魔なだ...

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審問

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  1-4 審問 あたりにいい匂いが漂っている。 夕食時だ。 夏の夕暮れは、無条件に空腹を誘う。 いまは夕食時もまちまちになり、日が暮れてから食べることも多いが、子どものころは夕方といえば夕食の時間だった――それが記憶に刻まれていて、いまでも空がなめらかな紅に染まるとき、腹もくうと鳴く。 今日の晩飯はなにかな、と考えながら、幸人は帰路を急ぐ。 住宅街を歩いていると、カレーの匂いや炒め物の匂いが夕方の北...

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先生が必要だ

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  1-3 先生が必要だ 早紀と別れたあと、幸人はまっすぐ下駄箱には向かわず、階段を登っていた。 廊下は、それでも風が通るが、窓のない階段はじっとりと湿った熱気が立ち込めている。 そこをなんとか四階まで登り切るころには汗だくで、エレベーターないしエスカレーターの必要性を実感したが、廊下に出ると心地よい風が吹いている。 日本の夏独特の、なんとなく湿ったような風だ。 ハワイなどにいくと、もうすこし乾燥し...

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同類

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  1-2 同類 明らかにとぼとぼと歩いている幸人である。 放課後だが、まだ空は明るく、夕暮れには時間がある。 廊下には空調がなく、代わりに窓が開けられて、校庭で部活動の生徒たちがわいわいと騒ぐのが風に乗って聞こえてくる。 楽しそうでいいな、と幸人は一瞥をくれた。 おまえたちはのんきに部活をしていればいいんだ。 おれなんて、これから勉強が待っているのだ。 自らの足で、自らを封じる地獄へ赴かなければな...

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地獄への招待状

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  1 第一次接近遭遇  1-1 地獄への招待状 校舎一階の隅に、生徒たちから、ロウ、と呼ばれている部屋がある。 牢、という漢字を当てる。 なるほどな、と大上幸人は思う。 たしかに、牢屋、牢獄にふさわしい部屋である。 八畳ほどの、ご丁寧にも窓のない部屋だ。 その部屋にあるものといえば、一組の机と椅子。 入り口の扉に近いほうにひとつ、机を挟んで対面にもうひとつ椅子があって、さながら取調室を思わせる。 ...

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やんでるっ 閑話1

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  閑話 1 暴かれた世界 わだかまった空気がそのまま変色したように闇が立ちこめる部屋である。 カーテンのたぐいはすべて閉め切られ、扉もぴしゃりと閉じていて、そのどちらのわずかなすき間からも光は差し込まない。 まったくの闇、かといえば、そうでもない。 光はある。ぼんやりした、青白い、何十年も臥せっている病人の肌のような、ぬらぬらと濡れた質感さえある光だ。 部屋ではちいさな動物が唸っている。 そんな...

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